2026.6.1

遠州の次世代技術者を育てるために。高校生ロボット部に伝えたプロのマインド

#製造業の未来 #生きがい・働きがいの未来 #コミュニティの未来
◉この記事の概要

遠州地域の製造業を担う人材を育てたい——そんな思いのもと、ソミック石川は静岡県立浜松城北工業高校のメカトロ研究部に、約1年間にわたる支援を行いました。教えたのは、ロボットの作り方だけではありません。「目的は何か」「いつまでに何をやるか」という、プロの技術者のマインドセットです。地域と次世代への思いを持って支援に臨んだ、ソミックの技術担当・長坂さん。そして、その支援を受けて変わっていったメカトロ研究部員の鈴木さんに、話を聞きました。

 

 

◉この記事の見出し
  • 「大会に出る目的って何だろう?」——技術よりも伝えたかったこと
  • スケジュールを”自分たち”で組んだら、部室の空気が変わった
  • 工場で感じた、「ここで働きたい」という気持ち
  • 地域と中小企業を底上げするための、ソミックの思い
  • 次世代へ笑顔をつなぐために、企業ができること

 

 

◉お話を聞いた人

 

長坂智(ながさか さとし)

㈱ソミックトランスフォーメーションSUPPOT BizDev室。2013年より新商品開発に携わる。SUPPOT生みの親。

鈴木悠斗(すずき ゆうと)

静岡県立浜松城北工業高校でメカトロ研究部所属。卒業後、 2026年に㈱ソミック石川入社。

「大会に出る目的って何だろう?」——技術よりも伝えたかったこと

 

静岡県立浜松城北工業高校のメカトロ研究部は、40名ほどの部員が毎年12月の静岡県高校生ロボット競技大会を目標に活動する部です。ブロックなどを積み上げるロボットをゼロから作る「自律制御部門」と、ラインに沿って自動走行するマイコンカーのプログラミングなどを中心に行う「MCR部門」の2部門に分かれ、年間を通じてロボット製作に取り組んでいます。ソミック石川の長坂さんが初めてこの部を訪れたとき、まず投げかけた問いは技術的なことではありませんでした。

 

 

長坂さん
『大会に出る目的は何ですか?』という問いから始めました。1位になることが目的なのか、参加することが目的なのか。目的によって、目標の置き方もスケジュールの組み方もまったく変わってきます。技術的なことは調べれば分かります。それよりも、何かに取り組むときのマインドセットの方がよっぽど大事だと、私はずっと思っているんです。

 

 

 

 

この訪問の背景にあるのは、文部科学省が推進してきた「マイスターハイスクール事業」です。ソミックは、この地域産業の活性化に向けた工業人材育成事業に参画してきました。3年間の国の事業期間を経て、2025年度からは地域の企業・学校・行政が主体となる「浜松型マイスター推進事業」として歩み始めます。

 

当初はソミックが産業界側として、授業を担当するところからスタート。学校側との対話を重ねるうちに、メカトロ研究部を1年間にわたって支援するという取り組みへと発展していきました。その背景にあるのは、義務感ではありません。遠州の子どもたちに、ものづくりの喜びと可能性を渡したい——そんな思いが、この取り組みを動かしています。

 

 

 

 

スケジュールを”自分たち”で組んだら、部室の空気が変わった

 

メカトロ研究部に所属する鈴木さんは、支援を受ける前の部活動の様子をこう振り返ります。

 

 

鈴木さん
以前は『とりあえずここまででいいか』という感じで、予定を紙に残すこともなかったです。大会直前になっても調整が終わっていなくて、ギリギリになることが多かった。来てもスマホをいじっている部員もいたり……

 

 

長坂さんはその状況を受け、チームごとに「目的」を明確にした上で「目標」を設定し、「いつまでに何をやるか」を自分たちで書き出す仕組みを導入しました。2ヶ月に1回のソミックの訪問がひとつの節目となり、部員たちの意識が少しずつ変わり始めました。

 

 

鈴木さん
ソミックの社員さんが来る前までに『絶対に終わらせよう』というやる気が、みんなに出てきたんです。目的と目標を自分たちで書き出してから、前に向かう空気が部全体に広がっていきました。

 

 

大切なのは、「やらされたスケジュール管理」ではなかったと長坂さんは言います。

 

 

長坂さん
自分たちで目標に向けて日程を組んだからこそ、モチベーションが変わったんだと思います。社会に出ると、目先の作業に追われて、自分の仕事が最終的に何につながるのかを忘れがちです。でも、そのマインドセットを持っているかどうかで、時間の使い方も、生まれるものの質も、まるで違うものになります。

 

 

スケジュール管理が習慣になるにつれ、部室の雰囲気は少しずつ変わっていきました。出席率が上がり、技術を積極的に吸収しようとする前向きな空気が生まれました。そして迎えた12月の大会では、MCR部門で3年ぶりの5位入賞という結果が生まれました。

 

 

鈴木さん
スケジュールに余裕ができたことで、試行錯誤できる期間が長く取れたので、かなりしっかり走らせられるようになっていました。

 

 

▲第34回静岡県高校生ロボット競技大会当日の様子

 

 

工場で感じた、「ここで働きたい」という気持ち

 

支援を受けた鈴木さんは、卒業後にソミック石川への入社を決めました。

 

 

鈴木さん
工場見学に行ったとき、生産技術部門でロボットと人が協力して製品を作るラインを見て、すごく惹かれました。そして今回の支援を通じてソミックの皆さんと一緒に活動してみて、チームで協力してモノを作る雰囲気がメカトロ研究部での活動にそっくりだと感じたんです。自分に合っている、と思いました。

 

 

将来の目標を聞くと、鈴木さんはまっすぐ答えてくれました。

 

 

鈴木さん
みんなに頼ってもらえる技術者になりたいです。たくさんの技術を身につけて、『あの人すごい』と思ってもらえるように頑張ります。

 

 

 

 

その言葉を受けて、長坂さんはこう続けました。

 

 

長坂さん
技術者は、人に喜んでもらうために技術を使います。楽しみながら働いて、みんなに喜んでもらって対価を得る。そんなプロの技術者になってほしいと思っています。

 

 

地域と中小企業を底上げするための、ソミックの思い

 

鈴木さんのような縁も生まれましたが、採用は、あくまで嬉しい副産物です。今回の取り組みの目的は、遠州地域を盛り上げること。企業が協力して学生を支援し、工業系の知識や能力を身につけてもらうことで、地域の製造業全体の底上げを目指しています。

 

ソミックはかねてより、自らを「社会の実験場」と位置づけています。日本の製造業の99.1%を占める中小企業と同じ目線で課題に向き合い、そこで得た知見を社会全体に還元していく——それがソミックの姿勢です。

 

 

長坂さん
学生が目の色を明らかに変えた瞬間に立ち会えたことは、何よりの手応えでした。大会で入賞できたことも嬉しいですが、彼らが地元に残って能力を発揮してくれることを、何より期待しています。

 

 

 

 

次世代へ笑顔をつなぐために、企業ができること

 

ロボットの作り方を教えに行ったわけではありません。目的を問い、目標を立て、自分たちで動き出す力を育てること——それがソミックが伝えたかったことでした。

 

浜松型マイスター推進事業を通じた高校への支援は、これからも続いていきます。地域の子どもたちに働く喜びを伝え、そこから生まれた知見を製造業全体に還元していく。ソミックがパーパスに掲げる「次世代へ笑顔をつなぐ」は、こうした一歩の積み重ねの上に成り立っています。